既存のITシステムにランサムウェア対策を施す時、どのようなリスクを想定してコントロールするか、3点にまとめた。
想定されるリスクとそのコントロール
ランサムウェア対策を既存のITシステムに施す際には、以下の3つのリスクを想定してコントロールすることが重要である。
1. システム全体の可用性の低下
ランサムウェア対策を導入することで、システム全体のパフォーマンスや可用性が低下する可能性がある。特に、リアルタイムでファイルの変更を監視するソフトウェアや、トラフィックを解析するツールが導入される場合、これらがシステムの処理能力を圧迫することがある。対策として、システムのリソースを適切に配分し、負荷分散の機能を導入する。また、必要に応じてシステムのアップグレードや最適化を行い、可用性の低下を最小限に抑える。
2. データ損失や業務中断のリスク
ランサムウェア対策が適切に機能しなかった場合、システム内のデータが暗号化され、アクセス不能になるリスクがある。このような事態に備え、定期的なデータバックアップとリストアのテストが重要である。さらに、業務中断を最小限に抑えるために、迅速な復旧計画を策定し、関係者がこれに従って適切に対応できるようにする。バックアップはオフラインやクラウド上に保管することで、感染のリスクを軽減する。
3. 人的要因による脅威
システムの利用者がフィッシングメールに騙されるなどして、ランサムウェアを引き込むリスクが存在する。これに対しては、従業員に対するセキュリティ教育を強化し、疑わしいリンクや添付ファイルを開かないように注意を促す。また、多要素認証(MFA)の導入により、システムに不正アクセスされる可能性を減少させることができる。定期的なセキュリティ意識向上トレーニングとフィッシングテストを実施し、組織全体のセキュリティ意識を高める。
これらのリスクに対するコントロールを適切に行うことで、ランサムウェア攻撃による影響を最小限に抑えることが可能である。各リスクの特性に応じた対策を実施し、継続的な監視と改善を行うことが求められる。
監査手法
実際にランサムウェア対策が適切に施されているかを監査する際には、以下の3つの手法を用いることが有効である。
1. 文書レビューとポリシーチェック
監査の第一歩として、企業内のセキュリティポリシーやプロセスに関する文書を確認する。これには、ランサムウェア対策の手順書、データバックアップ計画、復旧プロセス、従業員教育プログラムに関する資料が含まれる。文書レビューによって、規定された対策が現場で実施されているか、また、そのポリシーが業界標準やベストプラクティスに沿っているかを評価する。特に、バックアップの頻度や保管場所、復旧テストの記録などを確認し、万一の際に実際に機能する体制が整っているかをチェックする。
2. システム監査と技術的評価
実際のITシステムやネットワークに対して、技術的な監査を実施する。この手法では、システムにインストールされたランサムウェア対策ソフトウェアの設定やログ、アクセス制御の状態などを直接確認する。特に、リアルタイムでのファイル変更監視やトラフィック解析が適切に機能しているか、負荷分散が問題なく行われているかを評価する。また、システムの脆弱性スキャンを行い、既存のセキュリティ対策が十分であるかを検証する。このような技術的評価により、システムの可用性やパフォーマンスがランサムウェア対策によって影響を受けていないかを確認する。
3. インタビューと運用プロセスの検証
システム運用担当者やセキュリティ担当者に対してインタビューを行い、実際の運用状況や問題点を把握する。この手法では、ランサムウェア対策が実務にどのように反映されているか、また、緊急時の対応手順が確実に理解されているかを確認する。加えて、従業員に対するセキュリティ教育の効果を検証するために、従業員からランダムに選んだサンプルに対してセキュリティ意識調査を実施することも有効である。実際にフィッシングテストを行い、従業員が不審なメールに対してどのように反応するかを評価し、教育プログラムの改善点を見つけることができる。
これらの監査手法を組み合わせることで、ランサムウェア対策の実施状況を包括的に評価し、必要な改善点を特定することが可能である。監査の結果に基づいて、対策の強化や運用プロセスの見直しを提案することで、企業全体のセキュリティレベルを向上させることができる。